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2010年2月10日 JRタワーホテル日航札幌

田中 裕士 先生
(札幌医科大学医学部
内科学第三講座)

棟方 充 先生
(福島県立医科大学医学部
呼吸器内科学講座)

大崎 能伸 先生
(旭川医科大学医学部
呼吸器センター)

原田 敏之 先生
(北海道社会保険病院
呼吸器科)
田中 ここ十数年で喘息の治療は大きく進歩し、喘息死も減少しています。しかしながら外来に占める喘息の割合は依然として高く、入退院を繰り返す患者さんも少なくないのが現状です。そこで本日は“難治性喘息”をキーワードに、新しい治療方法について、討論したいと思います。最初に棟方先生から、気管支喘息の現状と難治性喘息の残された課題についてお話しいただきたいと思います。
棟方 近年、「喘息病態の中心は、好酸球を主とする慢性の気道炎症と気道のリモデリングである」という説が広く認識され、喘息の疾患概念は大きく変わりました。これに伴い、治療法も気道炎症の抑制、リモデリングの制御および平滑筋収縮の抑制が重視され、吸入ステロイド薬(ICS)を代表とする抗炎症薬と、長時間作用性β2刺激薬(LABA)をはじめとする気管支拡張薬の併用が基本治療となりました。以降、喘息死は右肩下がりに減少を続け、死亡率の低下は慢性のcommondiseaseでは類をみないほどです。
その一方で、わが国のICSの普及率は欧米に比べてまだまだ低く、AIR-J2005では成人において20%に満たないと報告されています1)。喘息死自体は減少しているものの、喘息死に占める高齢者の割合が非常に高く、高齢者喘息をどう治療するのか。今後の喘息治療の課題といえます。また、難治性喘息にも、多くの課題が残されています。
難治性喘息は、『喘息予防・管理ガイドライン2009(JGL2009)』において「経口ステロイド薬や抗IgE抗体を除く治療ステップ4の治療をしても症状が毎日出現する」、すなわち中等症持続型相当以上の症状が残っている状態とされており、欧米でもほぼ同様に捉えられています。喘息の難治化病態には、気道のリモデリングが大きく影響しています。リモデリングの一因は平滑筋の腫大・増生であり、気道炎症に関連する成長因子、サイトカイン、種々のメディエーターなどのすべてが細胞増殖に働くことがわかっています。さらに、喘息患者の気道には上皮-間葉系の相互作用の異常があり、炎症による上皮の傷害がうまく修復されないために炎症サイクルが続き、リモデリングが進むと考えられています。
田中 難治性喘息はその定義にもよりますが、喘息患者さん全体の約5~10%とされています。先生方のご施設には、難治性喘息の患者さんはどのぐらいいらっしゃいますか。
大崎 当科では10~15例ほどですが、その半数はすでに気道リモデリングを生じ、治療抵抗性になっているのではないかと考えています。残りの半数は気道リモデリングはないものの、増悪を繰り返しています。全体からみると少人数ではありますが、医療にかかる負担は非常に大きいと思います。
原田 私個人が担当している患者さんのなかでは、3~5%ではないかと思います。
田中 当科では25名ほど、喘息患者さん全体の10%程度が難治性喘息と考えられます。喘息の難治化因子としては、(1)受動喫煙を含む喫煙、(2)低アドヒアランス、(3)心因性の要因、(4)肥満や鼻炎などの合併症、の4つが挙げられます。これらの要因を減らそうと努力したのですが、実際に成功したのは喫煙のみでした。喫煙により薬剤の反応性は低下し、また上皮の修復にも悪影響を与えます。4つの難治化因子のうち、喫煙はすぐに除去できる因子であり、最初に取り組むべき課題ではないかと考えます。
棟方 当科の難治性喘息は5~10%ほどです。私は、難治化因子としては、アドヒアランスの問題がかなり大きいように感じます。現在、厚生労働省の研究班で患者再教育の有効性を調べていますが、著明な改善を認めるケースがあり、アドヒアランスの重要性を再認識しています。また、呼気中の一酸化窒素を用いた早期診断・早期治療の試みを行っており、難治化症例は以前より減っています。難治化する患者さんは早期から気道リモデリングが起こることもあるので、そうした見極めも非常に重要だと思います。
田中 先生方は喘息の早期診断として、具体的に何かされていますか。
原田 アストグラフなどが使える環境にあればよいのですが、市中病院では時間もツールも限られており、特別なことはできないのが現状です。ただ、咳喘息による咳嗽などがみられる場合、約3割は典型的な喘息に移行すると考えられますので、ICS/LABAの合剤を積極的に使い、早期からしっかりと治療するよう努力をしています。
大崎 JGL2009では診断法として、呼吸機能や気道過敏性の試験が推奨されていますが、実際にこれらの検査ができる開業医の先生はごく少数です。ですから、「症状に日内変動がある」「IgE抗体価が高い」「アトピー症状がみられる」といった症例では咳喘息を疑い、ICSを積極的に使って診断的治療を行うのが現実的ではないかと思います。
また、我々のグループでは、旭川市内の専門医を対象に高齢者喘息のアンケート調査を行ったのですが、高齢の患者さんでは吸入手技にかなり差があることが明らかになりました。その結果、旭川市では、薬剤師会が積極的に吸入指導をしてくれるようになりました。アドヒアランスは非常に重要ですが、吸入手技を繰り返し確認することも、特に高齢者では注意すべき点だと思います。
田中 次に、棟方先生からJGL2009の改訂のポイントについてお話しいただきたいと思います。
棟方 JGL2009改訂のポイントの1つは、治療目標を従来よりも少し高くしている点です。コントロール状態の評価が新たに記載され、治療目標である「コントロール良好」を、喘息症状がなく、呼吸機能やPEFの日内変動もほぼ正常で、発作治療薬の使用や増悪がなく、運動も含めて健康な人と同じように日常生活を送れること、と定義しています。
長期管理薬の段階的治療法は、治療内容の強弱によりステップ1~4の4段階に分けられ(図1)、これらの治療ステップとコントロール状況を組み合わせて、重症度を決定しています(図2)。
さらに、JGL2006発表後に発売・承認された新薬の位置付けを明確にしています。そのうちの1つである抗IgE抗体オマリズマブは、重症アレルギー性喘息に対する新しい治療薬で、治療ステップ4に位置付けられています。ICS、LABA、LTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)およびテオフィリン徐放製剤のすべてを使用してもコントロール困難であり、かつ通年性のアレルゲンに感作されていて、血清総IgE値が30~700IU/mLの場合に適応となります。
棟方 まずは、IgEが喘息症状を引き起こす機序について触れたいと思います。B細胞はIL-4およびIL-13の刺激によってクラススイッチを起こし、IgE産生形質細胞に分化します。産生されたIgEは、マスト細胞上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し、抗原の侵入を待っているわけです。抗原はマスト細胞上のIgEに結合し、2つのIgEが架橋されて、喘息の急性増悪を引き起こします。
オマリズマブはIgEのCε3領域に対するヒトモノクローナル抗体で、血中の遊離IgEと結合して免疫複合体を形成し、マスト細胞上のFcεRIへの結合を阻害します。遊離IgEの減少とともにFcεRIの数も減少させ、それによってマスト細胞から炎症性メディエーターが放出されなくなり、結果として即時型喘息反応(IAR)/遅発型喘息反応(LAR)を抑え、喘息の急性増悪を抑制する――このような作用を期待して開発された薬剤です。
実際、オマリズマブによって、末梢血細胞上のFcεRI数が10分の1以下に減少した(図3)との報告があります2)。またIARおよびLARの抑制3)(図4)、急性増悪および救急外来の受診回数の半減なども報告されており4)、おおむね期待されたような効果が得られています。
田中 では、オマリズマブの使用経験や治療の手応えについてお聞きしたいと思います。
大崎 当院では、オマリズマブを10例ほどの重症喘息患者さんに使用していますが、症状改善にかなり有効であると感じています。JGL2009では治療ステップ4に推奨されていますが、個人的にはもう少し早い段階で使用して、症状をコントロールしながらICSによる治療を行う、というような使い方も有用ではないかと思います。
田中 原田先生はいかがでしょうか。
原田 当院ではまだ使用症例が少ないのですが、そのうちの1例を紹介します。喘息罹病歴10年強の60歳代女性で、当院に紹介されてきたときには、ICS/LABA合剤、LTRAなどが最大用量で投与されていたにもかかわらず症状が持続しており、経口ステロイド薬(プレドニゾロン10mg)を使って何とかコントロールしていました。オマリズマブを導入したところ、投与後4週間は変化がなかったのですが、8週の段階で症状改善を示しました。また、これまでは夜間に4回ほど短時間作用性β2刺激薬(SABA)を使用していたのが、ほとんど使わずにすむようになり、良好な睡眠が得られたと喜んでおられました。大崎先生がおっしゃったように、症状改善効果が大きいと感じました。
棟方 当院では7~8例に投与し、著効が得られたのは3分の2程度です。まず改善例を示します。発症13年目の68歳の女性です(図5)。呼吸機能はFEV1が55%、NOは200ppbとかなり高値でした。ICS2剤、LTRA、抗アレルギー薬を投与し、一度は症状が落ち着きましたが、徐々に呼吸困難が進行したため、オマリズマブ300mg/2Wを投与したところ、NOはすぐに低下し、FEV1は正常値近くまで回復しました。またimpulse oscillometry(IOS)により呼吸抵抗をみると、もとは末梢気道成分(R5-20)が比較的高かったのですが、改善傾向がみられました。
一方、思ったような効果が得られなかった症例を示します。67歳男性で20年ほど前から喘息があり、現在は経口ステロイド薬(プレドニゾロン10mg)と各種薬剤をほぼ最大用量で使用しています。オマリズマブを投与したところ、増悪の回数は減少したものの、呼吸機能には明らかな改善は認められませんでした。また、本症例の気道抵抗は中枢気道成分(R20)が高く末梢気道成分(R5-20)は低めだったのですが、IOSの改善もみられませんでした。
これまでのオマリズマブ使用症例6例をまとめたデータでは、改善を示した4例ではR5-20の低下がみられることがわかりました(図6)。オマリズマブが吸入薬ではなく注射薬であるため、血行性に肺に到達する薬剤であることを考えると、非常に興味深い点だと思います。
田中 当院では5例の症例を経験して4例で改善が認められ、なかなか良好な成績が得られています。
50歳で喘息を発症、現在56歳の女性です(図7)。各種薬剤がほぼ最大用量で投与されていたのですが、オマリズマブを追加したところ、それまで毎日発作があり、週2回程度点滴を受けていたのが、2週間もしないうちに発作がなくなり、息切れも改善しました。また非常に高かったR5-R20も著明に改善しました。当院の経験では、効果がある症例では2週間以内にかなりのレスポンスが得られるように思います。また、病歴が長く、もう治療の選択肢がない状態で在宅酸素療法を行っていた症例にオマリズマブを投与し、4ヵ月ほどで改善が得られた症例も経験しています。
次に、効果のみられなかった症例を紹介します。48歳女性、家庭内に喫煙者が2名おり受動喫煙の環境にあります。オマリズマブ150mg/4Wを投与したのですが、目立った効果はみられませんでした。ところが、糖尿病による下肢の壊疽で入院し、受動喫煙のない状態でオマリズマブを使用したところ、IOSの改善がみられ、2日に1度受けていたテオフィリンの点滴もここ数日は不要となっており、受動喫煙が増悪因子となっていたと考えられます。したがって、先述した難治性喘息の4つの要因のなかで、少なくとも喫煙および心因性の症例は、オマリズマブの適応にはならないと考えられます。
* 掲載されている症例は臨床症例の一部を紹介したものであり、すべての症例が同様の結果を示すものではありません。
田中 それでは最後に、大崎先生に今後の医療情勢も含めたコスト面について、お考えをうかがいたいと思います。
大崎 オマリズマブは投与期間が明確でないこともあり、患者さんの多くは経済的な負担を心配されます。北海道内では現在約50例がオマリズマブを使用しており、道内の適応患者数は100~150例程度ではないかと考えます。それほど多い人数ではありませんので、国や自治体による医療費の助成を受けられるようにしていただけないかと思います。高額な薬剤ではありますが、投与によって喘息死や救急搬送の減少が期待できますので、救急医療の崩壊が叫ばれている現在、メリットは大きいと考えられます。ただし喫煙者に対しては、有効性の面からも、倫理的側面からも、オマリズマブは使用すべきでないと考えます。症例を厳格に選択した上で、国や自治体の助成も受けながら適正使用をしていくことが理想であり、求められていると思います。
棟方 確かに、オマリズマブの投与期間が長くなるに従い患者さんには経済的負担が重くのしかかり、効果が出ているにもかかわらず治療を止めざるを得ない場合もあると聞いています。オマリズマブの作用機序は、喘息の本態と思われる部分を抑制するという非常にユニークなもので、本来であればより早期の段階から効果が期待できるのですが、高価であるが故に最重症例に制限されています。将来的には、より軽症例から使えるようになってほしいと考えています。
原田 オマリズマブは既存の抗喘息薬にはなかった作用機序で、私自身、著効例も経験しています。この薬剤の恩恵を最大限に発揮できるよう、投与期間や中止後再燃した際の再投与の有効性について、明らかにしていく必要があると思います。
田中 今回のJGL2009の改訂により、喘息症状を主体とした治療を積極的に進めるという流れが示され、オマリズマブは重症アレルギー性喘息の治療において重要な役割を担っていくと考えられます。その一方で、患者さんの経済的負担が大きいのも事実であり、医療費助成も含めて考えていかなければいけないと思います。
オマリズマブの使用期間については、6年間使用して3年間休薬した場合、休薬後も比較的良好なコントロールが持続するとの報告も出てきていますので5)、今後の研究成果に期待したいと思います。本日はどうもありがとうございました。