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2010年3月5日 丸ノ内ホテル

福田 健 先生
(獨協医科大学
呼吸器・アレルギー内科学)

土橋 邦生 先生
群馬大学医学部
保健学科

檜澤 伸之 先生
(筑波大学大学院人間総合科学研究科
呼吸病態医学分野)

長谷川 隆志 先生
(新潟大学医歯学総合病院
医科総合診療部科)
福田 喘息の基本病態である気道炎症に対し、吸入ステロイド薬(ICS)が奏効することが喘息の治療ガイドラインに盛り込まれて全世界に普及し、その結果、喘息死は激減しました。しかしそれでもなお、喘息症状を訴える患者さんが少なからず存在することも明らかになっています。その理由として、1つはガイドラインに準じた治療が完全には実行されていないこと、もう1つは、ガイドラインに準じた治療を行ってもなおコントロール不良例が存在することです。従来、このような症例には、経口ステロイド薬の投与しか治療法がなかったのですが、抗IgE抗体オマリズマブが登場したことで、重症喘息に対する治療の選択肢が広がりました。
そこで本日は、関越地区の先生方にお集まりいただき、「オマリズマブをどのような症例に投与し、どのような感触が得られたか」「今後どのような使い方をしていくべきか」などについて、ディスカッションしたいと思います。
はじめに、本日のテーマである重症喘息について確認したいと思います。重症喘息とは、「症状が毎日ある、日常生活が制限される、治療下でもしばしば増悪する、夜間の症状がしばしばある」といった状態を指します。なかでも、『喘息予防・管理ガイドライン2009』(JGL 2009)におけるステップ4の治療を行っても中等症または重症持続型の症状が残る例は、最重症持続型とされます(表1)。
ところが、重症喘息と判定された症例のなかに、しばしば重症喘息にあたらない例がみられます。特に注意すべきなのが、COPDやVocal Cord Dysfunction合併例、アドヒアランス不良例、ステロイド薬の効果を減じる合併症を有する例、喫煙例などで(表2)、これらの有無を確認したうえで、重症喘息としての治療方針を決定する必要があります。
福田 さて、まずは先生方の施設における重症喘息の頻度についてお聞かせください。
檜澤 当院は大学病院で、コントロール不良例が集まりますので、最重症持続型は10%ほどです。
土橋 当院にもやはり重症例が集まります。その多くは、短期間、経口ステロイド薬を使用し、その後ICSに切り替えることでコントロールできるようになりますが、あらゆる治療をしてもコントロールできない症例も約5~10%います。
長谷川 私は、10年ほど前から年2回の頻度で、新潟県内の喘息のアンケート調査を行っています。2008年の結果をみると、2,634例中、喘息コントロールテスト(ACT)でコントロール不良と判定されたのは、全体の1/5程度です。
次に、IgEの記載がある症例1,060例を抜き出して検討しました。このうち、JGL 2006のステップ4症例におけるACTスコアの平均は約20点で、満点(25点)だったのは79例中10例、12.7%でした。全ステップを含む調査全体の満点の割合が25%程度でしたから、その半分にあたります。
また、アトピー型は全体の約60%で、従来の報告とほぼ同程度で、各ステップのIgEの平均値はステップ4で高い傾向があるものの、有意差は認められませんでした。全体のデータをみてみますと、重症喘息は0.5%ほどではないかと思います。
福田 重症ということで紹介されてきても、実際には、COPDや低アドヒアランス、心理的要因など、先述したような理由(表2)によって重症にみえていた、という例はありますか。
長谷川 当院には心療内科もありますので、しばしばそのような例を見かけます。
福田 2009年のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicineに、重症喘息患者のアドヒアランスについて検討した報告があります1)。アイルランドの重症喘息専門外来を受診した182例のデータをみると、患者さんの35%はICS処方量の半分以下しか使用しておらず、反対に21%は処方量以上の量を使用していました。また、経口ステロイド薬も45%は処方量を服用していませんでした。ICSが比較的汎用されている欧州で、しかも対象が重症喘息であるにもかかわらず、アドヒアランスはこの程度です。したがって、重症喘息を見極める際には、かなり 念入りにアドヒアランスをチェックする必要があると思います。
檜澤 ICSのアドヒアランスが悪かった理由は何でしょうか。
福田 ステロイドに対する不安が最も多いようです。日本ではステロイドに対する不安をもつ人が多いので、この報告よりもアドヒアランスが悪いことは十分に考えられます。
長谷川 新潟県内の調査をみる限りは、それほどひどくないですね。日本ではむしろ吸入方法が正しくないために起こる、吸入不良の問題が大きいように思います。
土橋 確かに吸入指導は非常に重要だと思います。また、救急外来に搬送されてきた喘息患者さんのうち、帰宅できた人の約半数はICSを処方されていたのに対し、入院した人でICSを処方されていたのは17%程度との報告があります。吸入手技の問題だけでなく、ICSが処方されているかどうかも問題です。
福田 アドヒアランス、ICS処方の有無など、患者さん側にも医師側にも課題がありそうですね。
福田 JGL 2009では、重症喘息に対し高用量ICSと併用薬3種類をすべて使用してもコントロール不良の場合、患者さんにアレルギーの関与があれば、抗IgE抗体オマリズマブの使用を推奨しています。
従来、アトピーの有病率は年齢とともに減少すると考えられていましたが、最近はこれを否定する意見もあります。また、重症喘息のアトピー有病率は、軽症、中等症に比べると低いのですが、ENFUMOSA studyでは50%以上2)と報告されています。ですから、重症喘息で抗IgE抗体の適応となる症例は、少なからずあると考えられます。
またメカニズムの面では、FcεRIに結合したIgEを介して抗原が認識されると、マスト細胞から炎症性メディエーターが放出されることはよく知られていますが、最近、炎症性メディエーターだけでなく、リモデリングを惹起する因子も放出されることが明らかになりました。米国の研究では、ダニ、ブタクサ花粉に感作されている喘息患者に抗原チャレンジをすると、気管支内の炎症細胞は24時間後には増加しても7日後には元に戻るのに対し、リモデリングマーカーは、7日後にさらに高くなることが示されています(図1)3)。これは、たった1回のアレルゲン刺激でもリモデリングが進行することを意味します。したがって抗IgE抗体による治療は、気道リモデリングを防ぐうえでも意味があると考えられます。
先生方は、抗IgE抗体のメカニズムに基づく重症喘息病態への影響の可能性について、どのようにお考えですか。
檜澤 私は、オマリズマブはアレルギー性鼻炎の合併例で非常に効果が高い印象をもっています。肺機能が悪くても、鼻炎がコントロールされることによりQOLが改善する患者さんもいらっしゃいます。
土橋 最近、低分子量の化学物質が喘息の原因の1つとして問題になっていますが、抗原が低分子のため、IgEが関与していてもIgE高値とならない場合があります。ですから、RASTがマイナスでもIgEが関与している例が多いのではないかと思います。
福田 そのような抗原が見過ごされてきたために重症化しているのではないかということですね。
土橋 はい。特に職業性の喘息では、継続的に抗原を吸入しているのでわかりにくいと思うのです。
長谷川 IgEが関与しない症例にオマリズマブが有効な場合がありますが、土橋先生がおっしゃったような理由も関係しているのかもしれません。
福田 実際、オマリズマブのデータが集積されてくると、アレルギー反応の抑制だけでは説明のつかない効果もあります。逆に いえば、これまで病態が不明であった症例で抗IgE抗体が有効であれば、治療的診断が可能になるとも考えられます。
檜澤 抗IgE抗体は、重症においてより効果が高いという報告がありますが、これも即時型アレルギーの抑制だけでは説明できません。IgEが喘息の重症化、慢性化に関係している可能性もありますね。
福田 それでは、各施設でのオマリズマブの使用経験についてお話しいただきたいと思います。土橋先生からお願いします。
土橋 まず最重症の2例についてお示しします。1例は30年ほど前から喘息発作を繰り返しており、薬剤もあらゆる喘息治療薬を最大用量で使用しています。もう1例も何度も入退院を繰り返している症例です。これらの症例にオマリズマブを投与したのですが、投与開始2週間の時点では、明らかな効果は出ておりません。
一方、群馬県の上武呼吸器科内科病院の症例ですが、経口ステロイド薬(プレドニゾロン)5~10mgほどを投与し、月2~3回点滴を行っている数例にもオマリズマブを投与しました。そのうち約半数で肺機能の改善がみられ、また経口ステロイド薬の減量ができた患者さんもいました。このように当院と上武呼吸器科内科病院では、重症のなかでも比較的軽い症例で有効でした。
檜澤 最重症例はステロイドには反応していないのですか。
土橋 反応していますが、喘鳴がひどくて動けなかったのが何とか動けるようになる程度で、経口ステロイド薬とICSの増量の繰り返しです。その一方でやや軽めの重症例では、オマリズマブの投与により、点滴のための来院が必要なくなったり、経口ステロイド薬の減量など、患者さん本人が自覚できる効果が現れています。
福田 ありがとうございます。次に長谷川先生、お願いします。
長谷川 小児期から喘息で通院していた50歳の女性で、アトピー性皮膚炎を合併しています。以前にハウスダストの減感作療法も受けたようです。来院のたびに聴診上で喘鳴が認められ、薬剤はICSの合剤や経口ステロイド薬を含め、ほぼ最大用量で入っている状態です。この症例にオマリズマブを投与したところ、短時間作用性β2刺激薬(SABA)の使用回数が週2~3回から週1回に減少し、聴診上の喘鳴も消失しました。また、患者さんの訴えでは、アトピー性皮膚炎の症状も軽快したようで、満足されています。
もう1例、さほど効果が得られなかった症例を紹介します。74歳の女性で、50歳ごろに喘息を発症しました。ステロイド依存性があったためオマリズマブを投与しましたが、まったく効果がなく、本人の希望で中止しました。この症例もアレルギー性であり、先の症例との違いはわかっていません。
福田 では次に、檜澤先生にお願いします。
檜澤 当院関連病院の茨城東病院のデータを紹介します。オマリズマブ投与例のうち、投与16週を過ぎた12例を解析しました。半数は毎日経口ステロイド薬を使用しなければならない症例、もう半数は月に何回も経口ステロイド薬の短期間投与を必要とする症例です。オマリズマブの投与により、2例で肺機能の改善がみられました。肺機能改善群と非改善群の背景を比較すると、改善群では、「治療前の1秒量(FEV1)低値」「治療後のIgE値上昇」「鼻炎なし」「喫煙なし」という特徴が認められました。
興味深いのはIgE-MASTで、肺機能改善群はダニやハウスダスト、ネコ、イヌ抗原などは反応せず、カンジダなどカビ類に反応しています。非改善群では、逆にダニ抗原などに反応しています(表3)。
自覚症状については、オマリズマブ投与前および投与後16週間の問診(咳、日常生活の質、夜間睡眠の質)の点数と経口ステロイド薬の使用状況を比較し、「自覚症状著効」「自覚症状効果あり」「自覚症状不変」の3つに分類しました。その結果、肺機能改善群の2例はいずれも、自覚症状に対しては「効果あり」と判定されました(図2)。それに対し、「自覚症状著効」と判定された症例では必ずしも肺機能の改善は得られず(図3)、自覚症状と肺機能の改善との関連性は認められませんでした。
背景因子をみると、自覚症状著効群では「ベースラインの総IgE高値」「鼻炎合併」「罹病期間が短い」といった特徴がありました。さらにIgE-MASTは、自覚症状著効群ではダニ、ハウスダストに全例反応しており、スギ、ヒノキにも反応しています。これらの背景因子の特徴にどのような意味があるかは、今後症例を重ねて検討する必要があると思います。
福田 自覚症状はかなり改善していても肺機能が改善しないのは、リモデリングが進んでいる可能性が高いですね。
檜澤 自覚症状改善群では、咳も消失し夜も眠れるようになり、経口ステロイド薬を必要としなくなったのですが、それでも肺機能は改善していないのです。重症喘息には、このように肺機能と自覚症状が相関しない患者さんが結構いるのではないかと思います。
福田 我々もまだ経験が少ないので断定的なことはいえませんが、土橋先生が示された最重症例のような肺機能が著しく低い症例では効果が現れにくい傾向がありますね。一方、肺機能の低下がそれほどひどくない――例えば%FEV1 50~60%台程度で罹病期間も短いような症例では、比較的高い効果が期待できると考えられます。増悪の抑制に関してはいかがでしょうか。
土橋 肺機能は改善しなくても、救急外来の受診回数が減少したり、経口ステロイド薬が減量できた症例が数例あります。救急外来の受診がなくなれば、QOLも改善し、患者さんも前向きに治療を続けようという気持ちになるのではないでしょうか。
福田 肺機能の改善を第一義的にみるよりは、QOLや経口ステロイド薬の投与量抑制、救急外来の受診頻度などで評価したほうがよいといえそうですね。
私の経験では、1ヵ月間投与して効果が現れていたにもかかわらず、会社の休暇がとりにくいとの理由で中断した例がありました。このような受診回数、または経済的な面での不都合はありましたか。
長谷川 経済的な面はやはり影響しますね。効果が出ていた症例でも、治療費のために中断してしまうケースがあります。
土橋 治療を始める前に「オマリズマブは投与した患者さん全員に効果があるわけではない」とお話ししますので、コストを考えると、治療に踏み切れない方が多いのも事実と思います。しかし、先ほどお話ししたとおり、救急外来の受診がなくなる ことでQOLは向上しますし、経済的な負担も少し改善されます。また、経口ステロイド薬の使用量が減るという安心感もあります。そうした点も理解したうえで、選択いただくのがよいと思います。
福田 先生方のお話をまとめると、オマリズマブの対象患者としては、重症のなかでも罹病期間が比較的短く、使用前の肺機能がさほど大きく低下していない症例が最も適しているといえそうですね。まだ結論を導き出せる段階ではありませんが、今後さらに使用経験を積み重ねていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
* 掲載されている症例は臨床症例の一部を紹介したものであり、すべての症例が同様の結果を示すものではありません。