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医療関係者のみなさま

重症喘息エリアネットワーク研究会パネルディスカッション
 京都エリア 難治性喘息治療におけるオマリズマブの位置付け

2010年3月17日 ホテルグランヴィア京都

司会:佐々木 義行 先生(国立病院機構京都医療センター 呼吸器科)
佐々木 義行 先生
(国立病院機構京都医療センター 呼吸器科)

コメンテーター:新実 彰男 先生(京都大学大学院医学研究科
呼吸器内科学)
新実 彰男 先生
(京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科学)

コメンテーター:安場 広高 先生(三菱京都病院
呼吸器・アレルギー科)
安場 広高 先生
(三菱京都病院 呼吸器・アレルギー科)

コメンテーター:上田 幹雄 先生(京都府立医科大学大学院
医学研究科呼吸器内科学)
上田 幹雄 先生
(京都府立医科大学大学院 医学研究科呼吸器内科学)


難治性喘息の定義と疫学

佐々木 喘息治療薬として初めての抗体製剤であるオマリズマブが臨床使用され始めて1年が経過し、使用経験も増えてきました。
そこで本日は、難治性喘息治療におけるオマリズマブの位置付けについて討議したいと思います。まず難治性喘息の定義および現状について、新実先生にお話しいただきます。

新実 『喘息予防・管理ガイドライン2009(JGL 2009)』では、難治性喘息を経口ステロイド薬や抗IgE抗体を除く治療ステップ4の治療、すなわち高用量吸入ステロイド薬(ICS)、合剤を含む長時間作用型β2刺激薬(LABA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン徐放製剤をすべて使用しても、症状が毎日持続する最重症持続型に属する喘息と定義しています(表1)。また欧米では、高用量ICSと他の長期管理薬を併用してもコントロールできない喘息とされています。このような難治性喘息患者は現在も少なからず存在し、その治療にはしばしば難渋します。

表1 喘息治療ステップ(JGL 2009))
表1 喘息治療ステップ(JGL 2009)


 難治性喘息の臨床像にはいくつかのフェノタイプがあり、主なものとしては「頻回増悪型」「不可逆性気流閉塞型」「経口ステロイド 依存性~抵抗性」が挙げられます。特に重要なのが頻回増悪型で、このタイプに着目した研究がいくつか報告されています。オランダのten Brinkeらは、精神心理学的失調、副鼻腔疾患、胃食道逆流症(GERD)、繰り返す気道感染が頻回増悪因子であることを報告しています1)。また10年ほどの追跡調査の結果、頻回の喘息増悪は呼吸機能の経年変化を加速させるとしている報告もあります2)
 私どもの近畿北陸気道疾患研究会でも、高用量ICSに加え長期管理薬を1剤以上、1年以上必要としている症例を対象として検 討を行っています。その結果、頻回増悪群(1年間の増悪3回以上)では対照群(1回以下)に比べ、増悪頻度、短時間作用型β2刺激薬(SABA)の使用頻度、過去1年間の入院、救急受診が有意に高値でした。また末梢血白血球数、呼気NOおよび血清ECP濃度が高いことから炎症が強いことが示唆されました。
 注目すべきは、アトピー型が少ないとされる重症喘息でも6~7割の症例で1種類以上の抗原が陽性となった点です(表2)。また多変量ロジスティック回帰分析では、副鼻腔X-pスコアの上顎洞スコア、白血球数、TSH、トロンボキサンB2、うつのスコアが頻回増悪と有意な相関を示し(表3)、気道炎症とともに、合併する慢性副鼻腔炎、精神科的問題などの重要性が示唆される結果となりました。

表2 特異的IgE抗体陽性率
表2 特異的IgE抗体陽性率

表3 多変量ロジスティック回帰分析
表3 多変量ロジスティック回帰分析



安場 好酸球性の副鼻腔炎では篩骨洞の重症度が高いと言われていますが、新実先生が示された頻回増悪型は上顎洞の重症度が高くなっています。このことから、好中球性の炎症が頻回増悪型にある程度関与している可能性が考えられますね。

新実 好中球の重症喘息への関与については、最近いくつかエビデンスが出てきていますので、今回の結果も好中球の関与を反映しているのかもしれません。

安場 今後、抗IgE抗体が好中球炎症まで抑制するかどうかも明らかにされてくると思います。重症喘息と副鼻腔炎の合併はかなり多いので、非常に興味深いですね。


難治性喘息の現状と問題点

佐々木 上田先生は、難治性喘息の現状や問題点をどのようにお考えですか。

上田 喘息死はここ10年ほどで急減しています。その最大の理由はICSの普及と考えられますが、全国喘息患者電話調査の結果をみると、まだ相当数がコントロール不良です3)。このようなコントロール不十分の重症喘息患者が喘息死全体の80~85%を占めるといわれています。しかしながらヨーロッパの調査では、厳格な長期管理をしてもコントロール良好例はわずか35%です。さらにコンプライアンス不良や副鼻腔炎、GERDなどの合併症をはじめとするコントロール阻害要因(表4)も知られており、これら複合的な要因により、従来の長期管理薬のみでは良好なコントロールが得られない症例が多数存在すると考えられます。
 喘息死に高齢患者の占める割合が多いことも問題です。当院の外来患者の年齢構成は60~79歳が約半数、80歳以上が1割に達しており、約60%が高齢者です。今後、高齢者への対応が大きな課題になると考えられます。また当院の難治性喘息患者のほぼ半数が副鼻腔炎やGERDなどの合併症を有しています(図1)ので、患者さんの中に潜んでいる合併症を発見していくことが必要と考えています。

佐々木 副鼻腔炎は、アレルギー性鼻炎として見逃されている例も多いのではないでしょうか。

安場 当院ではCTで副鼻腔炎の有無を確認しています。重症例ほど副鼻腔炎の合併率が高いので、鼻症状がなくても、CTを撮ったり耳鼻科を紹介したほうがよいと思います。

表4 治療困難な原因
表4 治療困難な原因

図1 合併症の有無と内訳
図1 合併症の有無と内訳



佐々木 難治性喘息では、喘息だけではなくさまざまな合併症が あるため、合併症の診断やコントロールも含めて診ていかなければいけないということですね。


JGL 2009の改訂のポイント

佐々木 以上のような背景の中でJGL 2006が改訂され、昨年、JGL 2009が発行されました。JGL 2009の改訂のポイントを、新実先生からお話しいただきます。

新実 JGL 2009では、長期管理については重症度に沿ったステップから治療内容の強弱に沿ったステップに変更され、コントロール状態に合わせて治療ステップを変更するという考え方が採用されました。高齢者喘息の項目の充実も図られています。
また現時点でのコントロール状態の評価が導入され、“コントロール良好”の定義は、喘息症状や発作治療薬の使用、活動制限が「なし」とされるなど、GINAよりも厳しくなっており、コントロール良好を目指して長期管理を行うこととされています。
 治療については、長期管理薬としてのICSの重要性をさらに強調するものとなりました。従来の軽症間欠型の治療では、短時間作用型β2刺激薬(SABA)に頼り過ぎて重大な発作を起こしたり、リモデリングが進行する例がみられたため、今回は治療ステップ1からICSを推奨し、治療ステップが上がるごとに推奨用量を増やしています。ICSが使用できない場合やコントロール不十分な場合は、治療ステップに応じLTRAやテオフィリン徐放製剤、合剤を含むLABAを1剤または複数使用することが推奨されています(図1)。
 すでに長期管理薬が使用されている場合、コントロール良好であれば現在の治療を継続し、その状態が3~6ヵ月持続すればステップダウンを考慮しますが、これは従来の3ヵ月から変更されています。またコントロール不十分であれば現行の治療から1段階ステップアップ、不良であれば2段階ステップアップします。治療ステップ4では、ICSにLABA、LTRA、テオフィリン徐放製剤のすべてを併用してもコントロール不十分の場合のオプションとして、抗IgE 抗体と経口ステロイド薬が挙げられています。


抗IgE抗体オマリズマブの位置付け

佐々木 抗IgE抗体オマリズマブは治療ステップ4の治療薬に挙げられていますが、経口ステロイド薬より先に使用すべきなのでしょうか。

新実 ガイドラインにはどちらを先に使用するかについての記載はありませんが、抗IgE抗体はエビデンスが確立しているため、経口ステロイド薬よりも上に位置付けられると考えられます。

安場 オマリズマブは経口ステロイド薬使用後に投与しても効果を発揮しますので、経口ステロイド薬の後で使用することも可能だと思います。

上田 経口ステロイド薬への依存がみられる症例では、オマリズマブ投与によって依存を克服できる可能性もあります。

佐々木 RASTなどで抗原が見つからない場合はどうされますか。

新実 通常は測定しない特異的抗原を測定したり、より感受性の高い皮内テストを行って陽性抗原を探すようにしています。

佐々木 治療の目標をどこに置いていますか。

安場 JGL 2009は、コントロール良好、すなわちGINAでいうトータル・コントロールを目指すという世界でも稀にみる厳しい基準です。これを目指すためには、例えば外来で患者さんに「変わりありませんか」と聞いて「変わりありません」と答えたとしても、それで満足するのではなく、夜間症状や日中の症状を聞き出す必要があります。私は患者さんに、待ち時間に喘息コントロールテスト(ACT)に記入してもらい、その内容をさらに診察室で確認します。またスパイロメーターを全例に行って1秒量(FEV1)とACTでコントロール状態を判断し、中等症以上でコントロール良好が達成できない症例にはオマリズマブ投与を考慮します。オマリズマブの適応症例を見逃さないためには、客観的な指標を使用する必要があると思います。

上田 夜、眠れないのは普通だと思っている方も多いので、「夜はよく眠れますか」など、具体的な質問をすることが大切です。
SABAを使用しながら「良好です」と言っている患者さんもいるので、本来SABAを使用せずにコントロールされるべきであることを教育することも必要です。

佐々木 呼吸機能検査や問診をもっと大事にすべきなのですね。


オマリズマブの使用経験

佐々木 新実先生、オマリズマブの使用経験についてご紹介ください。

新実 当科では、すでに14例にオマリズマブを投与しています。
最重症は9例、経口ステロイド薬を使用しているのは5例です。オマリズマブを8週以上投与した10例中8例で自覚症状の改善がみられ、またSABAの使用回数、救急受診、経口ステロイド薬使用量、発作回数、時間外救急受診の減少や、花粉症症状の改善も得られています。呼吸機能やIOSには明らかな傾向はみられませんが、FEV1が著明に改善した例もありました。残気率(残気量/肺気量)は多くの症例で改善しており末梢気道閉塞の改善が示唆され、症例が増えれば有意差が得られるのではないかと期待しています。
 45歳の女性に使用した経験をご紹介します。この方は喫煙者で、パニック障害と慢性副鼻腔炎の既往があり、花粉症を合併しています。経口ステロイド薬の隔日投与、ICS/LABA合剤、エアロゾル型ICSの併用にても毎日喘鳴があり、SABAを1日3~4回使用し、経口ステロイド薬を要する増悪や時間外受診もみられました。オマリズマブ投与を開始したところ、SABAの使用は1日1~2回に減少し、経口ステロイド薬を要する増悪、時間外受診が消失し、花粉症症状も軽減しました。またピークフロー値上昇、呼気NO低下、中枢気道抵抗低下、クロージングボリュームの低下が認められました。

佐々木 続いて安場先生の使用経験をご紹介ください。

安場 オマリズマブ投与後6ヵ月以上経過した13例をみると、ICS/LABA合剤と微粒子のMDI製剤の使用例が多く、経口ステロイド薬使用は3例、頻回増悪があるのは6例です。「朝のピークフロー値上昇(7例)」「%FEV1上昇(6例)」「経口ステロイド薬の減量(1例)」「β2刺激薬の減量(1例)」「救急受診が必要な増悪回数の減少(6例)」の5項目のうち2項目以上を満たした著効例は9例(69%)でした。
 77歳の女性症例をご紹介します(図2)。ICS/LABA合剤をはじめすべての併用薬が入っており、経口ステロイド薬も隔日投与していました。通常はwell controlですが、時々poor controlになるという状態で、%FEV1は50%以下でした。オマリズマブを開始したところ、1週目からピークフロー値が急激に上昇し、1ヵ月後に経口ステロイド薬を週2回に減量し、2ヵ月目には中止しました。息切れも改善し、本人も「長年の苦しみは何だったのか」と非常に喜んでいます6ヵ月が過ぎてから、徐々に他の薬剤も中止・減量したところ、肺機能は多少下がりましたが、自覚症状的には異常はありません。現在はオマリズマブにICS、LTRAの併用でACTも25点満点を維持しています。オマリズマブによって症状が改善した際に、どの薬剤から中止・減量するかが今後の課題だと考えています。
 オマリズマブを投与した患者さんからは、「喘鳴が減って、喘息になる前の元気が出てきた」「信じられないほどよくなって、気分がいい」などの声が聞かれており(表5)、客観的な指標に加え、QOLに結び付く評価でも非常に有効との印象をもっています。

佐々木 いずれも有効率は70~80%との結果ですね。オマリズマブによって症状が改善した場合、どの薬剤から減量するのがよいですか。

図2 症例(77歳 女性)
図2 症例(77歳 女性)

表5 投与患者の感想
表5 投与患者の感想



安場 LABAやテオフィリン徐放製剤を中止すると呼吸機能が低下しましたが、ICSの減量では呼吸機能があまり変化していませんので、ICSの減量が先だと思いますが、もう少しデータを集積する必要があります。


オマリズマブ処方の際の説明事項

佐々木 オマリズマブを使用する際に、経済的な負担や副作用も含めて、患者さんにはどのような説明をされていますか。

安場 私は、高用量ICSに加え2剤以上を併用してもコントロール不十分な症例に対しては、オマリズマブを紹介できる準備をするようにしています(表6)。

表6 オマリズマブの紹介方法)
表6 オマリズマブの紹介方法


まず特異的IgEを測定し、陽性にならない場合にはより鋭敏な皮膚テストを行い、1回はヒスタミン遊離テストも行います。これらを行った上で、コントロールが悪化した時期に「新しいメカニズムで、喘息の体質改善になる可能性のある注射薬が発売されました。これを使うと、喘息症状のコントロールがよくなり、他の薬剤、特に経口ステロイド薬を減量できる可能性があります」とお話しします。
医療費については自己負担額を具体的に示します。また高額所得者では70歳以上でも1割負担でなく3割負担になるので、ご自身の保険自己負担額を再度確認してもらいます。投与期間については、まずは16週間試してみて、続けるか否かを判断することを伝えます。
また効果判定が必要ですから、了解が得られてもすぐに投与するのではなく、開始の1ヵ月くらい前からスパイロメトリーやACTに加えて、ピークフローの測定を開始してもらいます。このように自覚症状と肺機能をしっかり把握してから開始し、4ヵ月後の効果判定に備えるようにしています。

新実 私も薬価については、必要な金額を具体的に示すようにしています。効果については、当初は経験が浅く具体的な説明ができなかったのですが、今回データをまとめてみて有効例が多いことがわかり、経口ステロイド薬5mgよりは明らかに効果的であるとの実 感もありますので、自信をもって説明することができる薬剤であると考えています。

* 掲載されている症例は臨床症例の一部を紹介したものであり、すべての症例が同様の結果を示すものではありません。


まとめ ~オマリズマブに対する期待~

佐々木 最後に、オマリズマブに対する期待についてお聞かせください。

安場 オマリズマブの登場によって、われわれが忘れかけていたIgEの重要性がクローズアップされました。このことは、喘息のメカニズムや他のアレルギー疾患との関係を考えるうえで非常に示唆に富む、良い経験だと思います。オマリズマブは増悪の軽減も期待できるので、“disease modifier”、すなわち疾患の経過を変える薬剤として位置付けられていくのではないかと思います。

上田 本日のお話で、オマリズマブが効果の高い薬剤であるとの印象を改めてもちました。今後は、有効例と無効例の背景の違いなどの解明を通して、より良い使用方法が確立されることを期待しています。

新実 オマリズマブは、アレルギー性喘息の本態を抑える薬剤であると考えています。大学病院で喘息外来を標榜しているため重症の患者さんを診る機会が多いのですが、重い症状で苦しんでいる患者さんは日本中にたくさんいると思います。今後、そのような患者さんがオマリズマブの治療を受ける機会がさらに増えていくことを期待しています。

佐々木 本日のお話から、オマリズマブが非常に有望な薬剤であることを改めて実感しました。今後、オマリズマブのより良い使用方 法が確立され、重症喘息の良好なコントロールにさらに貢献していくものと思います。本日はありがとうございました。

 
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