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2010年 3月8日 ホテルメトロポリタン仙台

田村 弦 先生
(仙台気道研究所)

山内 広平 先生
(岩手医科大学 内科学講座 呼吸器・アレルギー・膠原病内科分野)

高梨 信吾 先生
(弘前大学
保健管理センター)

柴田 陽光 先生
(山形大学医学部
内科学第一講座)
田村 1990年代の半ばまで、わが国の喘息死は年間6,000人程度でしたが、1993年に喘息のガイドラインが策定されてからは順調に減少しています。厚生労働省では2006年から「喘息死ゼロ作戦」を展開しており、2008年には年間2,500人を下回りました(図1)。喘息死が減った最大の要因は、吸入ステロイド薬(ICS)の普及であると考えられます。また、喘息死の減少と反比例してロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)の出荷量が増加していることから、LTRAも喘息死の減少に貢献していることが示唆されます。
2009年1月には抗IgE抗体オマリズマブが承認され、同年10月末に発表された「喘息予防・管理ガイドライン2009」(JGL 2009)には、長期管理におけるオマリズマブの位置づけが明確に示されています。そこで、最初にJGL 2009の主な改訂ポイントについて、山内先生にご紹介いただきたいと思います。
山内 JGL 2009では、症状がなく、健康な人と変わらない生活を送れることを完全なコントロール状態として、治療目標に掲げました。そのための長期管理の段階的薬物療法は、GINA 2006と同様、重症度ではなく治療内容の強弱に沿った治療ステップとしています。そして、現在行っている治療ステップと、その治療における患者さんの症状から喘息の重症度が決まってくるわけです(表1)。例えば、ステップ4の治療を行っても中等症持続型相当の症状がある場合は「最重症持続型」に分類されます。
今回のJGLの改訂では、エビデンスレベルをA~Dの4段
階で表記するようになったこともポイントの1つです。また、高齢者、難治性喘息に対する治療の強化も強調されています。
さらに、コントロール状態は、「喘息症状、発作治療薬の使用、
運動を含む活動制限、呼吸機能(FEV1およびPEF)、PEFの
日内・週内変動、増悪の頻度」によって、「コントロール良好」「不十分」「不良」のいずれかに評価します。喘息症状や発作治療薬の使用が週1回以上あるとコントロール不十分と評価されるなど、JGL 2006、GINA 2006よりも評価基準が厳しくなっ
ているのが特徴です(表2)。
田村 では、治療ステップは具体的にどのように示されていますか。
山内 治療ステップが4段階に分けられているところなど、大枠はJGL 2006とほぼ同じです。
細かくみていきますと、まずステップ1の段階からICS(低用量)が推奨されています(表3)。ICSが使えない場合は、LTRAまたはテオフィリン徐放製剤を使い、追加治療として抗アレルギー薬も記載されています。ステップ2ではICSの用量が低~中用量になり、ステップ3は中~高用量、ステップ4は高用量となります。また、ステップ2以降は、長時間作用性β2刺激薬(LABA)およびICSとの配合剤、LTRA、テオフィリン徐放製剤の併用が可能です。
それでもコントロール不十分な場合、ステップ4では抗IgE抗体や経口ステロイド薬の追加が記載されています。ただし、「経口ステロイド薬は短期間の間欠的投与が原則」であり、「可能な限り連用を回避する」との注意書きがあります。また、抗IgE抗体オマリズマブは、「通年性アレルゲンに感作されていて、血清総IgE値が治療標的範囲内(30~700 IU/mL)」の場合に適応となります。したがって、難治性喘息患者の一部は、オマリズマブの使用によってコントロールできるようになる可能性があります。
田村 JGL 2009では、難治性喘息の定義も変わりましたね。以前は経口ステロイド薬(プレドニゾロン 10mg以上)を1年以上連用していることが明記されていましたが、今回の改訂では「経口ステロイド薬や抗IgE抗体を除く治療ステップ4の治療をしても症状が毎日出現する、最重症持続型に属する喘息」となり、欧米の定義に近い形になりました。
田村 続けて、高梨先生に気管支喘息におけるIgEの意義をうかがいたいと思います。
高梨 従来から、IgEは喘息において中心的な役割を果たすと考えられています。実際、喘息患者の2/3程度はアレルギー性であり、喘息の有病率と血清IgE濃度の相関も報告されています1)。
以前は、アトピーは加齢とともに減少すると考えられていましたが、ここ30年間でアレルギー性疾患は増加を続けており、アトピーの有病率は年齢とともに減少しないことがわかってきました。特に、今の若い世代にはアトピー患者が非常に多く、ある医学部の学生を対象とした調査では、約8割に特異的なIgE抗体が認められたとの報告もあります2)。ですから、喘息におけるIgEの重要性は昔も今も変わっていないと思われます。
また、高親和性IgE受容体(FcεRI)の発現頻度が致死的喘息では非常に高いことも報告されています3)(図2)。FcεRIはマスト細胞以外にも好塩基球、単球、好酸球、樹状細胞など多くの細胞に発現しており、血清IgE値が高い人はFcεRIの数も多いと報告されています4)。そして、オマリズマブを投与すると遊離IgEが減少するだけでなく、細胞表面に発現しているFcεRIの数も大幅に減少することが示されています5)。こうしたさまざまな作用の結果、気道上皮の好酸球やリンパ球、IL-4やIL-5の陽性細胞が減少するわけです。
さらにオマリズマブは、アレルギー反応の上流に位置するIgEを抑制することで、即時相と遅発相の両方を抑制することも確認されています6)。この実際のデータを読み、非常に興味深く感じました。
田村 上流から抑えれば、下流のヒスタミンやロイコトリエンも放出されなくなる。ということは、LTRAの導入により喘息死の減少が示唆されたように、オマリズマブにも同じようなことが十分に起こり得るというわけですね。
高梨 そうですね。例えば蛇口を閉めると水が出なくなるように、オマリズマブを使うことで、実際にそのようなことが起こっているのだと思います。
田村 オマリズマブの治療対象患者は、どのように選択すればいいのでしょうか。
柴田 オマリズマブの適応は、既存の治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者さんに限られています(図3)。具体的には、高用量のICSおよび複数の喘息治療薬を併用しても症状が安定せず、通年性吸入抗原が陽性で血清総IgE値が治療標的範囲内(30~700 IU/mL)の場合に適応となります。
田村 “症状が安定しない”とは、具体的にはどういうことでしょうか。
柴田 「喘息に起因するような呼吸機能の低下(FEV1が予測値の80%未満)がある場合」「喘息症状が毎日観察される場合」「夜間症状が週1回以上観察される場合」などです。
田村 そのうち1つが該当すればよいのですね。では、そのような患者さんに対し、どのように説明されていますか。
山内 個々の患者さんの理解度に合わせて、マスト細胞やIgEの話、オマリズマブの作用機序やこれまでに報告されている症例の話などをして、経済的負担なども提示します。
高梨 既存の喘息治療薬とは全く機序の異なる薬剤であることを患者さんに話し、なぜ効くのかという仕組みも説明しています。特にオマリズマブの適応となる難治性喘息の患者さんには、以前からこういう新薬が出るという情報を提供していたので、すんなり受け入れられました。ただ、効果だけでなく、副作用等についても説明することが重要です。
柴田 発売当初は経験がないので、使用する側としても少し戸惑いがありましたが、身近な症例で有効例が少しずつ出てきたので、「かなり治療に苦労されていた方でも効くケースが多いですよ」という話もできるようになりました。オマリズマブの投与症例は全国ですでに1,000 例ほど集積されており、患者さんに勧めやすくなってきています。
田村 私は、既存の抗喘息薬とはメカニズムの全く違う薬剤であることを含めるようにしています。また、「普段の生活では抗原の存在はわからないと思いますが、オマリズマブによって症状が改善されるのであれば、あなたの症状を増悪させる抗原が周りに存在しているということですよ」というような話をして、お勧めしています。
田村 では、ここでオマリズマブに関する私の使用経験を紹介します。いわゆる4大抗喘息薬(ICS、LABA、LTRA、テオフィリン徐放製剤)をすべて使っていても、年に1回程度の喘息発作があった65歳の女性です。ハウスダスト、ダニ、動物のアレルゲンに陽性で、IgE値が120 IU/mLだったことから、オマリズマブを導入しました。すると初回投与後に、患者さんから「体が軽くなり、動きがスムーズになった」「くしゃみが消失して、眼の“渋い”感じがなくなった」「顔面全体の重圧感が消失して、若くなったように感じる」などと、非常に興味深いコメントをいただきました。
山内 私は3例に投与し、2例で明らかな効果が得られました。そのうち40歳前後の女性は、においに敏感ですぐに発作が起こってしまうため、経口ステロイド薬を中止することができなくなっていたのですが、「ここ3~4年間は布団に背中をつけて寝られたことがなかったのに、オマリズマブの注射をしてから、初めて背中をつけて寝ることができた」と言われました。
もう1名は小柄な女性で非常に活発な方でしたが、喘鳴があり、経口ステロイド薬も相当量を使用していました。PEFは 200L/min程度ですが、オマリズマブ投与後は400 L/min近くまで改善し、階段も普通の人よりも速く上れるようになったということです。この2人は肺機能が著明に改善し、症状もだいぶよくなって喜ばれました。
田村 オマリズマブの効果は、患者さんの感想からよくわかりますね。高梨先生はどのような症例を経験されましたか。
高梨 50歳の女性ですが、5年前に気管支喘息を発症し、数ヵ所の病院を経て当院に来られました。アスピリン喘息で、ICS、テオフィリン徐放製剤などを用いても経口ステロイド薬を使用する状況が続き、経口ステロイド薬中止困難となりました。
IgE値は210 IU/mLで、ダニのRASTスコアは2です。初診時の短時間作用性β2刺激薬吸入後のFEV1が2.21L、経口ステロイド薬を1週間服用した後が2.67Lですので、リモデリングはあまり形成されていません。頭痛があり、CTでは重度の副鼻腔炎が認められました。ICSは合剤も含めてさまざまなものを使用しましたが、改善されません。呼気 NO は経口ステロイド薬を使用すると 30~40ppbまで低下しますが、中止すると100ppb 程度まで戻ってしまい、咳嗽、喘鳴のために日常生活にも支障があります。
この患者さんにオマリズマブを投与したところ、経口ステロイド薬が不要になりました(図4)。好酸球数も低下し、HS-CRP、呼気NO、ACTスコアも改善しました。肺機能も正常に戻っています。患者さんご本人は、「今のように楽になったのは初めてで、入浴中に歌が歌えるようになった」と嬉しそうに話しておられました。また、鼻の調子もよくなったそうです。
山内 その患者さんは、アレルギー性の副鼻腔炎だったのでしょうか。
高梨 はい、好酸球性の副鼻腔炎です。また、ハウスダストはRAST 2ですので重度というわけではありませんが、同定できない抗原もありますので、1~2年は投与を続けてみようと 考えています。
田村 経口ステロイド薬を急に中止していますから、離脱症候群には気をつける必要がありますね。
高梨 そうですね。定期的にコルチゾールを測定していますが、今のところは正常です。この患者さんには非常に感謝され、喘息のご友人にもオマリズマブの治療を勧めたとおっしゃっていました。
柴田 山形県内で積極的にオマリズマブを使用した症例は、概ね良好にコントロールされるようになったと聞いています。ただし、薬価を気にして量を減らしたところ、症状が悪化したという話も聞いたので、やはり適正使用が重要だと思います。
* 掲載されている症例は臨床症例の一部を紹介したものであり、すべての症例が同様の結果を示すものではありません。
田村 ここまで先生方の使用経験をうかがってまいりましたが、オマリズマブの効果はどのように判定されていますか。
山内 1ヵ月ごとの受診の際に呼気NOとPEF、肺機能、好酸球などをチェックしています。
高梨 オマリズマブの症例はまだ少ないのですが、山内先生と同様で月に1回、呼気NO、肺機能、血液検査をしています。
柴田 私は呼気NO測定と肺機能検査を行っています。
田村 いろいろな検査をすると医療費も高くなりますが、患者さんの反応はいかがですか。
山内 検査に対するネガティブな反応はあまりないですね。患者さんは自分がよいと感じていることを、検査値という客観的な判断基準でも確かめたいのです。そうすると、効いているという実感が確信に満ちたものになる。高額な治療だからこそ、しっかり確認したいのだと思います。
田村 なるほど。やはり、これまでの治療で上手くコントロールできなかった患者さんが対象であることと、全く新しいメカニズムの薬剤を使うということで、ご自分の喘息の管理状況に興味をもっている方が多いのかもしれません。
また、検査をすることで、レスポンダーとノンレスポンダーを明確に判定できるので、継続的に使用すべき患者さんを見分けることもできます。
さて、本日は先生方に、オマリズマブの興味深い使用経験や貴重なご意見をうかがいました。オマリズマブは、IgEを介して喘息の増悪を起こすような症例には唯一無二の薬剤です。例えば、身近に自分の知らない抗原があり、それを排除できない患者さんにはオマリズマブが著効するのではないかと思っています。そのような患者さんは、何らかの原因で抗原が急増したときには重篤な発作を起こし、喘息死に至る危険性もあるわけです。オマリズマブは、重症喘息の増悪回数を減らすことも確認されており、重症患者さんに上手に使っていけば、「喘息死ゼロ作戦」にも貢献できるのではないかと期待しています。
本日はどうもありがとうございました。